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JG18 水島眼鏡さん
一般的な眼鏡フレームの価格帯から考えるとかなりの高額商品でありながら、その価格帯において想像以上の人気を誇るジャポニスムの金無垢モデル「JG-18」。金無垢モデルは、今までにもジャポニスムのコレクションに存在していたが、このモデルが弊社同ラインナップの中で異例の売り上げを誇るのは一体どんな理由があるのか?金無垢の眼鏡フレームはすでにいくつも市場に存在する中、なぜこのJG-18がこれほど注目を浴びているのか? そこでいかにしてこのモデルが誕生したのか、JG-18の製造先、約80年の歴史を持つ水島眼鏡株式会社の代表取締役 水嶌(しま)基博様と常務取締役 江尻征聡様にグロスサイトにご登場いただき、弊社デザイナーとの対談をしていただきました。製造するにあたっての様々な開発エピソードを明らかにしていきますのでお楽しみください。
デザイナー:
市場を見渡してみれば、金無垢の眼鏡自体はありますが、ここまで細部にまでこだわりを持つフレームはあまりないのではないかと思いました。工芸品のような蝶番と、美しいカーブライン。目元はグッと引きしまりますが、レンズの外側が浮いて見えるため、軽やかな開放感があります。金無垢の素材でこの眼鏡を完成させれば、これは面白い商品になると、作る前から手応えのようなものを感じつつ進めていきました。
ただ製造していくにあたってはこれは難しい商品だぞと、それは私の方でも重々分かっていましたので、なんとも心苦しい気持ちを持ちながら、水島さんのドアを叩いた事を覚えています(笑)。あの時の、初めてこのデザインをお見せした時の水島さんの厳しい顔つきが今でも忘れられません(笑)。
水嶌社長:
確かにこのフレームの図面を初めて見たときに、これはできるのか? そして、受けてしまっていいのか? と思いまして、取締役と二人で顔を見合わせました(笑)。
デザイナーさんからこのお話を受けた後、改めてボストンクラブの小松原社長に電話をし、本当にこの企画を進めるのかどうか再度確認したほどでした。確か、あのときは香港での眼鏡展示会に出店していた時だったかと思いますが、そうしたら、小松原社長もちょうど香港展にいらっしゃって、直接「なんとかお願いします」と直談判されたので、もはや受けざるを得ない状態になったのです(笑)。
江尻さん:
ジャポニスムの独特で流麗なラインがそのまま反映されたフロントデザインなので、今までには作ったことのない造形でした。ただ、どこでフロントを分割して繋げるのかで、最終的な見え方も変わってきます。また、金という特別に高額な材料ですから、材料効率を深く考えないといけない。そうした問題を考えながらも、フロントのトップバーをより綺麗に見せるにはどうしたらいいのかなど、本当に悩みました。
水嶌社長:
我々の方でも、いかにデザイナーさんの意図を汲みながら、つなぎ目を自然に見せるにはどうしたらいいのかなどを考えていきました。やはり、つなぎ目が目立つような見え方ではいけませんし、それがデザインの美を損なう原因にはなるようでもいけません。やはり金ですから、製造工程による材料の無駄と失敗のリスクを、極限にまで削らないとうちも仕事として採算が合わない話になってしまいます(笑)。
水嶌社長
高いハードルを乗り越え完成したJG-18
パッドやネジまでも金にこだわりデザインしている。
江尻さん:
ボストンクラブさんのデザインには毎回驚かされておりますが、今回は更に驚かさせていただきました(笑)。金という素材から考えますと、この奥行きのあるデザインはかなり難しい造形でして、そう単純な話ではありません(笑)。型作りの難解さにより、金型の破損をなんども繰り返しました。
仰るとおり眼鏡は置物ではありませんので、ただ単純に外観だけを考えて形にする、ということでは商品の完成とは呼べません。あくまでも人が身に付けるものとしての完成を求められます。そこが体につけるプロダクトの難しさということなのですが、この眼鏡に求められる掛け心地に良さを生み出すためには、金の硬さやしなやかなバネ性などをうまくコントロールした上で製造をしないといけないということなんですね。柔らかすぎると戻る弾力、ずばりバネ性が生まれませんし、硬すぎると折れてしまう可能性がでます。ですから、冷間鍛造された金の持つしっとりとした弾力を素材の特徴をできる限り活かすことがとても重要なポイントとなってきます。
そして先ほど申しましたように金ですので、素材の無駄なども計算し尽くした設計をしていきます。正直申しまして、これほどまでに、あらゆる工程に気配りをしなくてはならないフレームはないと思いますね(笑)。初回生産分を納品して、数か月後に再度ご発注を頂いたときは、嬉しい反面、現場ではため息が漏れるという状態でありました(笑)。
デザイナー:
その甲斐がありまして、おかげさまで最初は6セットしか作りませんでしたが、即完売という結果となりまして、こうして何度もリピート発注をさせて頂きました。しかし、お願いした本人が言うのもなんですが、想像以上の産みの苦しみがあったわけですね(笑)。
水嶌社長:
はい(笑)。弊社では今までにいくつもの金無垢フレームを作ってきましたので、それなりにノウハウの蓄積がありました。金無垢のフレームは難しい素材で、ミス、つまりは材料の無駄が許されない素材ですから、様々な経験がないと、リスクが高すぎてなかなか手を出せない素材です。しかし、今回のフレームに関しましては、新しいデザイン要素、失敗すれば一発で赤字になってしまうような危険な綱渡りがいくつもあり、ノウハウだけでは補いきれない新しい産みの苦しみがありました。
江尻さん:
我々の製造現場においても、JG-18のプレス(鍛造)加工ができる者は一人しかおりません。この難しさを考えると、日本や世界に一人ではないかと、そうとまで言いたくなるほどのものです。当然、この作業は彼しかできませんので、彼がやりやすいようにしないと、そもそも製造が進まないという、かなり通常とは異なった生産体制をとるわけですが、うちも他の仕事ももちろんありますし、彼にその仕事に専念してなさいと、そういうわけにはいきませんので、この仕事が入りますと、全体の生産ラインにも影響を大きく与えるという、なかなか厄介な代物なわけです(笑)。
江尻さん
水嶌社長:
金無垢フレームは、通常の何十倍という価格の特別な商品ですから、当然あまり数は出ません。ですから通常は1モデル一度の製造で終わることが多いのですが、JG−18は発表からこれまでに何度も製造しています。このモデルのように、これほど早いペースで動く商品は本当に珍しく、弊社でも前例のないケースですね。これだけ高価な価格設定で、作れば必ず売れる商品というのは他にないのではないでしょうか?
前回のジャポニスムの金無垢フレームは、数年間で10枚程度が売れたとお聞きしています。しかし、JG-18は2年もかからないうちに何ロットも製造することは、ちょっと異常なペースとまでいいたい程の商品だと感じています。
デザイナー:
本当にありがたい話です。ところで先ほどからも何度かお話に上がっていますが、金無垢作りは、一般的な素材とは違い、高額商品ならではの無駄を出さない努力があると聞いております。どんな作業でさえも、かなりの注意が必要だと聞いていますが...
水嶌社長:
金という価値ですから、プレス加工後の切削したクズも回収して再利用します。クズでも金ですので立派な財産です。そのため、作業着や集塵機もずっと同じものを使っていまして、作業後の回収や、洗浄液も循環して使ったり、工程ごとにあらゆる気遣いをして再利用させていきます。すべての作業にこの様な考え方が必要ですので、何倍もの手間暇がかかる素材なのです。
デザイナー:
技術的にはどのような方法をとったのでしょうか?
江尻さん:
今回のJG-18は、熱で溶かした金を金型に入れて形作る鋳造ではなく、機械で素材を叩いて形成するプレス加工という方法を取ったのですが、たとえばチタン材であれば5軸切削機によって削り出すことで3次元的造形を作り出すことが比較的容易で可能なのですが、2次元の上下運動しかないプレス加工によって3次元の造形を作っていくのもまた難解な作業でした。
開発を進めるにあたって、チタン材のプロトがあったのは助かりましたが、おそらくチタンのプロトを作るのでさえ、相当難解な作業であったのではないかと、お察しいたします(笑)。こうした見えない開発努力がこうして形としてまとまりまして、製作者としての視点で考えますと、世の中に未だないデザインの金無垢フレームを作れたことは満足感の高い仕事でした。同時に、こうやっていくつもの難題を乗り越えたことで、我々の製造スキルも一段階レベルアップした気がしています。
水嶌社長:
人気の高いこのJG-18はもう何度も製造していますが、その度にプレス加工の金型を作り替えながら進めています。通常のメガネ作りでは、一度作った金型を作り直すようなことはありえないことなのですが、これは前回の製造ロットであった問題点を解決していくことができます。型を作り変えることで、製品のクオリティもまた上がっていきます。また、金の場合は如何に無駄を省くのかということも重要ですので、確かに効率悪くうつるかもしれませんが、こうして金型を作り変えることで効率を上げ成長していけました。失敗を重ねて材料を無駄にできませんので、それよりは金型を作り変える方がいいわけですね。
江尻さん:
こちらのパーツは、切削加工前、ブリッジ足をロー付けする前のフロントバーですが、重さは約15gです。これだけで普通のリムレスフレームと同じ重さになります。これを如何に無駄なく作業するか。このデザインは材料使用効率の面から考えると、通常の1.5~2倍の材料を使っているという計算です。
水嶌社長:
金型は、とりあえず現在のものが最終版でして、3回作り直しをしています。そして、ようやくご発注に対して心から喜んでお受けできる気持ちになりました(笑)。いや、今でもご発注頂くと現場がざわつくのは否めません・・・(笑)。いくらよりよい工程が見えてきたとしても、皆これを作るのがどれだけ大変なことかはわかっていますから。
江尻さん:
とにかく失敗できませんので慎重に進めています。もちろん余分な本数も作れないですから、各行程で失敗できないという緊張感がものすごく、現場はずっとピリピリしています。案外、一番単純で簡単な行程が一番難しかったりするもので、そうしたところで失敗が重なってみたりと、とにかく最後の最後まで、最終工程を終えるまで気が抜けない作業が繰り返されるというモデルです。
もちろんデザイナーさんのデザインを完成させることが目標ではありますが、様々な難しい条件のもと、デザイナーさんには製造性を上げるためにこちらサイドの意見を尊重していただきました。我々の意見に対して決してノーと言わず進めることができたのは、とてもやりやすかったですね。
デザイナー:
商品のクオリティを高めるためには、お互いがお互いの専門性を尊重して信頼することが大事です。そうすることで商品のトータルの完成度が上がります。この信頼関係の元、深い追求が行えました。様々な難しい条件のもと、水島さんには製造性を上げるために現場の意見を尊重させていただきました。水島眼鏡様の製造に対しての提案には決してノーと言わず進めて頂いたのはやはり”餅屋は餅屋”という考えからです。もちろんお願いしたデザイン意図を尊重して頂くことは重要ではありますが、商品のクオリティを高めるためにはお互いがお互いの専門性を尊重して信頼することが大事です。そうすることで、トータルで完成度が非常に高い製品として完成しているものを追求していくことができました。妥協では無く、高いレベルでの〝すり合わせ”ですね。
水嶌社長:
仰るとおりです。この商品はいうまでもなく難しさにおいてトップレベルのモデル。10年前でしたら実現できなかったはずですが、技術の進歩のおかげもあり完成させることができました。本当に鯖江の技術を象徴したようなモデルといっても過言ではないのでしょうか。自分で言うのもなんですが、弊社の中に蓄積した経験、毎日の努力と挑戦があってこそ、この商品を作ることができたのだなと思っております。越えるべき壁、問題は次から次へと出てきますが、JG-18で一つの大きな壁を超えられたなと自負しています。
ありがとうございました。また、追加のご発注お待ちしています(笑)。
今後ともよろしくお願いします。
JG-18
シンプルながらも独創的なフォルムをミックスした今までにないゴールドのフレーム。これまでにはなかったデザイン性のため、ゴールドフレームの歴史の中でも際立って量産困難な希少商品。独特な面構成により、ゴールド特有の質感を効果的に表現しています。
K18:約26.61g K14WG:約24.48g
サイズ:54□16-141
レンズカーブ:3C
高さ:30.7mm
素材: フロント/Gold テンプル/Gold
希望小売価格: ¥950,400(税込)
Col.01 K18
Col.02 K14WG
完全受注生産により納品まで3〜4ヶ月程度頂いております。在庫がございましたらご試着も可能ですのでぜひご確認ください。その場合即納品も可能です。ホワイトゴールド、チタン製バージョンも存在しこちらも大変人気のモデルとなっております。